人形佐七捕物帳040
やはり祟りか、それとも殺人事件か
「血屋敷」（横溝正史）
（「完本 人形佐七捕物帳三」）
春陽堂書店
菱川流家元に伝わる
｢お由良様の幽霊｣。
その幽霊が屋敷で目撃された夜、
家元･寅右衛門が刺殺される。
その次の夜、今度は
家元を継ぐ予定だった
お千が刺される。
お千は自らの血で
｢血屋敷｣と書き残し、息絶える。
果たして幽霊は…。
横溝正史の人形佐七捕物帳第四十話
｢血屋敷｣。
どこかで読んだような記憶が
あると思いましたが、
やはり自作の改稿作品です。
初期作品｢妖説血屋敷｣(1936年)の
骨格をそのまま生かし、
人形佐七ものに
仕立て直した作品なのです。
【捕物帳〇四〇｢血屋敷｣】
七代目菱川寅右衛門
…菱川龍七代目を受け継いだ女。
老齢で八代目を譲ろうとしている。
お由良
…初代寅右衛門の妾。非業の死を遂げ、
代々の家元に祟るといわれている。
お銀
…七代目の養女。八代目が
約束されていたが、取り消される。
辰五郎の幼馴染み。
お千
…寅右衛門の内弟子。十八歳の娘。
喜久太郎
…寅右衛門の内弟子。十九歳の若者。
お吉…菱川家の女中。
嵐山雛三郎
…七代目が若い頃に恋い焦がれた役者。
山崎屋徳兵衛
…袋物問屋。
菱川の家の事情を知っている。
お源
…辰五郎の伯母。
お銀を佐七に引き合わせる。
神崎甚五郎…八丁堀の与力。
辰･豆六…佐七の乾分。
お粂…佐七の女房。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。
本作品の味わいどころ①
やはり祟りか、幽霊騒ぎの因縁
幽霊が何と二人現れます。
一人はお由良。
初代寅右衛門の妾で非業の死を遂げ、
代々祟るという呪いの女。
もう一人は芝居の狐忠信ふうの
男の幽霊。
寅右衛門が殺害された現場で
発見された、
役者の一枚絵がこの狐忠信。
さてはこの一枚絵から抜け出たのか？
二人もの幽霊が現れ、人を殺める。
これはやはり祟りなのか？
このおどろおどろしさが
読みどころです。
本作品の味わいどころ②
祟りではなく殺人事件、真相は
寅右衛門に続いて、
お千までが殺害され、
そこには息を引き取る間際に残された
ダイイング･メッセージ。
やはり祟りなどではなく、殺人事件か？
しかし、その残された文言は｢血屋敷｣。
播州皿屋敷とも掛け合わされるような
謎の文言。
これはやはり祟りなのか？
この二重三重の謎が読みどころです。
本作品の味わいどころ③
やはり祟りか、途絶える菱川流
最後には当然下手人が発覚します。
犯人らしい人間はことごとく死に絶え、
最も犯人らしからぬものが真犯人、
しかしそれすらも死に至る。
結果的には菱川流の血筋は途絶え、
お由良の復讐は完結した形になります。
これはやはり祟りなのか？
この因縁巡る血の呪いこそが
一番の読みどころなのです。
原形作品自体が
時代がかった設定であり、
人形佐七に転換しても何ら違和感のない
仕上がりとなっています。
原形作品の持つ
｢一人称によって語られる恐怖｣こそ
なくなりましたが、
そのおどろおどろしさは
ある意味倍増しています。
さすがは改稿上手の横溝です。
原形作品｢妖説血屋敷｣とともに
読み比べることをお薦めします。
〔原形作品｢妖説血屋敷｣〕
柏書房刊
｢横溝正史ミステリ短篇コレクション④｣
もしくは
角川文庫刊｢誘蛾燈｣(電子書籍)で
読むことができます。
〔｢完本人形佐七捕物帳三｣
収録作品一覧〕
血屋敷
敵討走馬燈
捕物三つ巴
いろは巷談
清姫の帯
鳥追人形
まぼろし小町
身代り千之丞
出世競べ三人旅
怪談閨の鴛鴦
人面瘡若衆
蝙蝠屋敷
笛を吹く浪人
狼侍
日蝕御殿
雪達磨の怪
坊主斬り貞宗
（2018.1.6）
【春陽堂書店｢完本 人形佐七捕物帳｣】
【関連記事：横溝ミステリ】
【復刊！横溝正史】
【今日のさらにお薦め3作品】
